パリとニューヨークで思考する

長年NYに暮らし、パリに住み、日本に戻ったアーティストの忘備録。

映画『1917 命をかけた伝令』の感想レビュー

パリの映画館で、サム•メンデス監督の『1917 命をかけた伝令』を見て来ました。

第一次世界大戦でのイギリスの若手兵士の24時間を描いたドラマ。とてもいい映画でした。私好みの映画だったので批判がない。そもそも私は、第一次世界大戦のテーマにとても興味があるのだ。

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その昔、オドレイ•トトゥ主演のフランス映画『A Very Long Engagement (ロング•エンゲージメント)』を見た時、ギャスパー•ウリエル演じる恋人役の、第一次世界大戦での兵役がすごく過酷だった。『アメリ』の監督ジャン=ピエール•ジュネなので、「寒い•辛い•痛い」の極限を表現するのがうまかったのかな。その時に「第一次大戦の兵士って大変だったんだな」と印象に残った。

その後、スピルバーグの『War Horse (戦火の馬)』があったけど、アメリカ映画なのでエンターテイメント色が強かった。

そして2018年、『ロード•オブ•ザ•リング』の監督ピーター•ジャクソンが、第一次大戦の兵士たちを記録したモノクロ映像に色付けをして、鮮やかに蘇らせたドキュメンタリーを制作したとかで、その映画『They Shall Not Glow Old』がイギリスのガーディアン紙で大•大絶賛されていた。2018年の年末、ニューヨークでの限定公開日に、満員の映画館でこの記録映画を見た。

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ピーター•ジャクソンと映画『彼らは生きていた』

過酷な生活や兵士の死体映像も出てくるが、残酷感はあまり感じず、あっけらかんと生きる青年たちの、同胞を愛する心「友愛」が浮き彫りになっている印象だった。ピーター•ジャクソンは第一次大戦モノが大好きだそうで、半分趣味のように制作したっぽい。このドキュメンタリー映画は『彼らは生きていた』というタイトルで日本でも公開されているので、興味のある方はぜひ見てください。

そんなわけで、私はこのテーマには関心があり、実在の映像も見ているので、『1917』がどんな映画になっているのか、興味があったのでした。

 

ストーリーは、第一次世界大戦に出兵中の若いイギリス人兵士2人の、ある1日の出来事を描いたドラマ。彼らに突然、重要な伝達任務が課せられ、デヴォン州の部隊1600人の兵士の命を救うため、部隊を率いるマッケンジー大佐を探し出して、将軍からの軍事メッセージを渡さなくてはならなくなった。

「あなたがもし、18歳のイギリス兵士で、急遽、仲間の命を救うメッセージを伝える重要な責任を与えられたらどうするか?前に進むか?戻るか?」という、どのシーンにおいても究極の選択を決断しなくてはいけない、ゲームの中に入り込んだような感覚の映画。

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かなり長いワンテイク撮影の連続で、いくつものワンテイク映像を繋ぎ合わせて制作されている。演劇の舞台のように、失敗が許されないワンショットで撮影されている。なので緊張感がある。綺麗に撮ったドキュメンタリー映像のような雰囲気。

主演の2人にほぼ無名の俳優を起用しているので、観客が先入観なくストーリーに没頭できる。一人の俳優ディーン=チャールズ•チャップマンは『ゲーム•オブ•スローンズ』に出ていたようだけど、私は拷問とレイプの続く暗いサド気質なGOTにうんざりして途中で見るのを止めてしまったので、彼のことは知らない。

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最初に、真昼間の明るい平原から、急に、暗い洞窟のような指令本部に呼び出される。ランプの明かりで将軍役の俳優の顔が照らされるが、誰が喋っているのか分からない。声で「あっ、コリン•ファースだ」と分かった。そういえば彼も出てるんだった。ほぼ声だけのコリン•ファースの出番は1分ぐらい。

俳優は、美声もいのち。顔だけじゃないよ。

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主役の兵士2人が戦場地帯に走り出ると、平原に馬が死んでいる。爆弾によってできた穴には死体が折り重なっている。実際に戦場に出ると、こんな感じなんだろうな、という現実感がある。

臨場感がすごい。

とはいえ、私は『彼らは生きていた』を見ているので、『1917』の映像は「映画向けに、かなりサラッと表現しているな」という印象だった。記録映像『They Shall Not Glow Old  彼らは生きていた』では、馬がもっと死んでた記憶があるし、兵士の死体ももっと積み重なっていたと思う。『1917』を見た人は「この映画、かなりグロい!」と思うかもしれないけど、割とさっぱりしていると思うし、現実はもっと悲惨だったと思う。残酷なホラー風に演出する監督もいると思うけど、サム•メンデスはサラッと仕上げたと思う。

 

映画の途中で、また別のカッコいい声の大尉が登場する。顔が見えないので「この声のいい俳優は誰かな?」と思ったら、マーク•ストロングだった。

この映画に出てくる将校さんは、声がいい。

コリン•ファースにマーク•ストロングときたら、映画『Tinker Tailor Soldier Spy ティンカー•テイラー•ソルジャー•スパイ (邦題:裏切りのサーカス)』じゃないか!(『キングスマン』もあるけど。) 脇役に英国の演技派を揃えて来たな、と気に入った。脇役は、登場時間が1分しかない。

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夜の襲撃映像はかなりリアルだった。あの映像は初めて見た。実際に兵士として戦場にいたら、夜は何も見えなくて、爆発音と襲撃の時のピカッとした閃光しか見えなくて、不安だろうなあ、という現実感がある。しかも、さっき人を殺してしまったけど、あれは現実だったのか夢なのか、自分でも分からないような、朦朧とした感覚が続く。

最後、いよいよデヴォン州の部隊にたどり着いて、一刻も早くマッケンジー大佐にメッセージを伝えようと必死に走るシーンで、私も一緒になって「早くマッケンジーさんと会って~!!コロネル•マッケンジーどこ~!?マッケンジーさーん!ところでマッケンジー大佐は誰だろう?」と手に汗握って見てたけど、登場したマッケンジー大佐は、やはり『Tinker Taiylor Soldier Spy  裏切りのサーカス』に出ていた、あのお方でした。やはり出演時間は1分。この俳優さんも美声。

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無事に任務も終わり、今度は同僚のお兄さんに大切なメッセージを伝えなくてはいけなくなり、再び「ブレイク中尉!ブレイクさーん!」とブレイク中尉を探し回って、ついに出会えたブレイクさんは、人気俳優のあのお方。なるほど、お兄さんって感じがする。

 

というわけで、見る者が、実際の戦争に兵士として参加しているような視点で鑑賞できる映画でした。残酷に見えるシーンもサラッと撮影されていると思ったし、とにかく臨場感を重視して、「現実にこれが起こったら、こうなんだろうなあ」という感覚を、映像にした感じ。

一部の映画批評家は「インドのシーク教の兵士はもっと参加してたのに、白人以外の人種が十分に描かれていない!」と騒いでたけど、兵士の群衆の中に、黒人やインド人も見えたし、特に白人兵士だけが出ていた印象はない。

第一次世界大戦はイギリスにとってもフランスにとっても (彼らは連合軍) 過酷で大変な体験で、それを一つの映画として残したサム•メンデスは偉い!と思ったのでした。今年のアカデミー賞のオスカー戦では、某•韓国映画が騒がれているので、この映画『1917』が、結果としてどう評価されるのかは分からない。ただ私にとっては「個人的に好み」な良い映画でした。

 

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『Tinker Tailor Soldier Spy 裏切りのサーカス

ところで、この映画で脇役の俳優たちが参加している『Tinker Tailor Soldier Spy ティンカー•テイラー•ソルジャー•スパイ (裏切りのサーカス)』は、超シブ~い落ち着いた英国スパイ映画です。英国の演技派俳優が集まってます。派手な演出は全くないですが、”初老のスパイの悲哀” のような渋い味わいがあるので、淡々とした渋い映画好きの方は見てみてください。主演にゲイリー•オールドマン、ベネディクト•カンバーバッチと、トム•ハーディーが出てるよ。

 

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