パリとニューヨークで思考する

長年NYに暮らし、パリに住み、日本に戻ったアーティストの忘備録。

映画『ROMA ローマ』をNYで見た感想レビュー

アカデミー賞候補となっている、メキシコ人監督アルフォンソ•キュアロンの映画『ROMA ローマ』を、NYの劇場で見てきました。大学の映像学科に通っているような人たちから気に入られそうな、玄人好みの美しい映像の映画でした。

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冒頭の石畳のシーンや、たくさんの鳥かごが吊り下げられた仕事部屋を行き来するメイドの様子など、生活感あふれる日常を、巧みに長回しで撮影した光景が続く。映像学科のクラスだとオールAを取りそうな、優等生な感じの映像描写ばかり。

いったい何回、空飛ぶ飛行機を、さりげなく背景に入れているのだ?絶妙なタイミングを狙って撮影された映像のオンパレード。

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この映画は、メキシコシティのローマ地区の中流階級の一家で、住み込みで働くメイド女性の物語。メイドさんは、朝から夜まで、ロボットのように休みなく働く。メキシコという国に存在する、階級社会の差がすごい。

やや非人道的ともいえる階級社会の現状を知って、愕然とした。「こんな社会でいいのか?」と。上の階級の人間は、スペイン支配からか、ヨーロッパ系の顔立ち。スペイン植民地時代に、大勢の白人移民がメキシコに移住してきて、もともと住んでいた現地の貧しいメキシコ人を雇って、一日中働かせているということ?同じ国民?ひどい状況に驚いた。

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1970年から71年の話なので、空気感が昭和的。おそらくアルフォンソ•キュアロン自身の子供時代の思い出を、感覚で再現した映画なんだろうと思った。彼が小さい頃に世話になったメイドの女性に感謝の念を込めて、制作されたらしい。映画の最後に名前が出る。

通りで物を売るおじさん、はしゃぐ子供たち、マーチする楽団など、雑音を効果的に使い、匂いまでしてきそうな、懐かしい状景が広がる。日本でいうと、石焼き芋売りのおじさんが、音を立てながら売り歩いているような風景。視覚と聴覚、感覚を刺激する映像が続く。

ザ•映画人が撮った映画、という感じ。

群衆を使った、ロングショットの撮影がすごい。「いったい、ここに到達するまで、何回練習したんだ!?」と思うような群衆シーンの重なりが多い。この近影と背後の映像は別撮りだろうか?と考えたりもしたが、すべて一緒に撮影したらしい。

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しかし、映画業界の人に受ける映画が、必ずしも一般の観衆に受けるとは限らない。

主人公のメイドさんを演じる女優が、いかにも素朴で普通の、どこにでもいそうなメキシコ女性だったので、映画の間はしっかり見ていたが、映画館を離れてしまうと、物語のことはすっかり忘れて、あまり印象に残らなかったのだ。

メイドの身に起こったある出来事に「ひぃ〜っ!」と手に汗握り、息をのむような臨場感あふれる場面もあったが、だいたいは、静かで穏やかな日常描写が続いていく。

この映画の女優たちはアカデミー賞の候補になったけど、これは彼らの実力というよりも、アルフォンソ•キュアロンの有無を言わせぬ実行力と撮影時の緊張感が、女優たちをつき動かし、迫真の演技をさせたのだと思う。

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この映画は、監督の頭の中に存在しているイメージ•映像を掘り起こし、実際の役者を総動員させて、監督本人がカメラを回して体当たりで撮影し、作り上げられたと思う。だから賞を取るとしたら、アルフォンソ•キュアロンしかいない。彼の頭の中に広がるビジョンを、スクリーン上に再現したものなのだ。

巧みな技を使って撮られた、美しいビジュアルの宝庫である。「長回しの撮影はこの映画を参考にしろ」と、映像学校の教科書になりそうな作品だ。メキシコの階級社会の現実を、さらりと描写している点も良い。

でも、私の個人的な考えでは、映画の魅力というのは、観衆を引き込むカリスマ性ある俳優の存在や、役柄のキャラクター設定、ストーリーの面白さだと思う。そういう意味で、これは素晴らしい映像作品ではあるが、人間ドラマとしては、弱いと思う。

 

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