パリとニューヨークで思考する

長年NYに暮らし、パリに住み、日本に戻ったアーティストの忘備録。

映画『グリーンブック』をNYで見た感想レビュー

1962年のアメリカが舞台の、白人ドライバーと黒人ピアニストの交流を描いたドラマ『グリーン•ブック』を、NYで見てきました。

運転手と雇用主の物語というと、モーガン•フリーマンが黒人ドライバーを演じた、1989年のアメリカ映画『ドライビング Miss デイジー』が有名だと思う。ただ今回は、黒人ピアニストの方が金持ちで、雇用主という設定になる。似たような映画はすでにあるので、今回はどう演出されているんだろう?と疑問だった。

この映画は、映画評価サイトのIMDbや Rotten Tomatoesでは、視聴者からかなりの高得点を得ているし、アカデミー賞でも作品賞で有力とされている。

f:id:akbrooklyn:20190209132141j:plain

物語は、NYのブロンクスで生まれ育った血気盛んなイタリアンのトニー (ヴィゴ•モーテンセン) が、才能あふれるNYの黒人ピアニストのドン•シャーリー (マハーシャラ•アリ) から、ドンの運転手+用心棒として雇われ、アメリカ南部のツアーを車で2ヶ月廻る、というあらすじ。1962年のアメリカでは、黒人に対する差別がひどくて、たとえ有名なミュージシャンでも、南部では蔑視されまくる。運転手のトニーは、渡された「グリーン•ブック」を参考にして、旅を進める。

映画タイトルの『グリーン•ブック』には、黒い歴史がある。1930年代、アメリカで黒人が車を購入して出かけても、差別により、ガソリンスタンドで給油を拒否されたり、宿泊を拒否されたり、レストランで暴力をふるわれたりした。そこで、NYの黒人郵便局員だったヴィクター•グリーンが、黒人がアメリカ国内を "安全に" 車で旅行できるように、黒人を受け入れてくれる宿泊施設や食事処をまとめた本を作った。グリーン氏が制作した『グリーン•ブック』だ。「この本に載ってる場所に行けば、白人から差別は受けない」という、黒人側の自己防衛のような本。1936年から1966年まで発行されたこの本は、主に黒人の間でしか、知られていなかったらしい。

こんな差別の本を、映画のタイトルにしていいの?

f:id:akbrooklyn:20190209131718j:plain

この映画では、才能ある黒人ミュージシャンのドンが、アメリカ南部において、簡単に差別される場面が、繰り返し描かれる。その都度、白人運転手のトニーが、窮地を救う、というエピソードが続く。差別問題に対する解決策は、何も出てこない。さらに、チラッと、黒人のドンのゲイ疑惑?みたいなのまで出てくる。ゲイで黒人だから、最悪な差別の対象だとでも言いたいのだろうか?このあたりで、イラッとしてきた。映画の中では、何の解決策も救済も提示されないのである。

ほんのちょっと触りで、政治家のロバート•ケネディが、この国を変えるだろう、という希望的セリフが出てくるが、それも白人を讃えるエピソードに過ぎない。アメリカ南部の白人社会に問題があるのは明白だが、どうもこの映画は、白人側の "上から目線" で撮られているように感じたし、黒人の立場を馬鹿にしてる?という印象すら受けた。「この人たちは、こんなキツい状況だったんですよ。この時代はどうしようもなかったんですよ」と他人事のよう。

その上で、でもブロンクス出身の白人トニーは、最後まで、黒人のドンの味方だったよ〜。友情は続いたよ〜、美しい友情物語だよ〜という、美談的な観点で描かれる。この時点で、ただの白人の自己満足映画でしかないな、と思った。

f:id:akbrooklyn:20190209131740j:plain

ヴィゴ•モーテンセンは、頑張ってブロンクス訛りのイタリアンを演じていたし、マハーシャラ•アリも、孤高のピアニストを気高く演じていた。価値観の違いを乗り越えて友情が芽生え、自分の立ち位置を訴えて、真剣に対峙するシーンは、まあ良かったと思う。

それでも、何一つ踏み込んで描かれていない。白人と仲良くなれば、それですべて美しく治まる、という話になっている。何というか、まるで差別をネタに黒人の立場をおもちゃにしているような印象を受けたし、人種を超えた友情を、表面的に美談として描きたかっただけのように思った。

この映画の製作者は、監督、脚本家、すべて白人。脚本は、実在のトニーの息子の、イタリアン•アメリカ人のニック•ヴァレロンガが関わっている。運転手で用心棒だった自分の父親トニーと、ドン•シャーリーとの2ヶ月間の友情物語を、讃える話に仕上がっているのだ。

黒人郵便局員のヴィクター•グリーンが作った「グリーン•ブック」を、世の中に知らしめるという点では、この映画の意義はある。ドン•シャーリーの存在を知らせたのも良い。黒人差別がいかに酷かったかを説明する点もいいと思う。だけど、黒人の人にとって思い出したくもないような黒い歴史を、白人が簡単にコメディ映画にしていいのか?と思う。こんなテーマは、黒人の監督が映画化すべきなのでは?

そんなわけで、コンセプトが中途半端な映画だが、俳優マハーシャラ•アリが、果敢に、差別問題に立ち向かう黒人ピアニスト役で、奮闘していた。役者としてのプロ意識が立派だし、あっぱれな仕事ぶりだと思う。

f:id:akbrooklyn:20190209131803j:plain

これは実話を元に作られた映画だけど、「事実と違う」と、黒人ピアニストのドン•シャーリーの遺族が、異論を唱えていた。ドンの弟モーリス•シャーリー氏は、「トニーはただの運転手で、ドンの友達だったことはない」と主張している。

この映画は、白人の観衆にとても受けているみたい。当たり障りなく描かれているのが、鑑賞しやすいのだろう。『グリーン•ブック』がアカデミー賞候補になって、その他の映画が、賞レースでザックリ無視される現実を見ると、映画業界では、まだまだ、女性は軽く扱われ、男性上位社会や、白人優位社会が続くような気がする...。

 

↓ よろしければクリックお願いします。

にほんブログ村 海外生活ブログ 海外生活情報へ にほんブログ村 海外生活ブログ 国際生活へ