パリとニューヨークで思考する

長年NYに暮らし、パリに住み、日本に戻ったアーティストの忘備録。

映画『JOKER』感想とホアキン•フェニックス考察

あけましておめでとうございます。

遅いです!10月から多忙だったためブログを書く時間がなく、今更ながら映画『JOKER』 レビューです。遅すぎて、すでに2020年の映画賞シーズンに突入しています。

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別の視点から、長々と書きます。というのも、ホアキン•フェニックスは、ここ15年ぐらい 私の一番好きな俳優 なんです。

今まで「CoCoさんの好きな俳優は誰なの?」と聞かれたら「最近ちょっと太ってきたけどずっとホアキン•フェニックスが好き 」と長年言い続けてきたが、「私も!」と返事が返ってきたことは一度もなかった…。

 

今回、ホアキン•フェニックスがトッド•フィリップスと組んで『JOKER』をやると知った時は、あまり期待していなかった。ホアキンは何でも上手く演じるだろうけど、トッド•フィリップスが信用できなかった。

ハングオーバー』の監督だよ!?こんな映画を作る監督、信用できるかい!!

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夏ぐらいに『JOKER』の画像が公開され、 綺麗だったけど、やっぱり信用できなかった。インディー/アート系の映画作品が似合ってたホアキンが、大衆向けのハリウッド映画に主演するのも違和感があった。

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ところが、10月に映画が公開されると話題になり、 人気が爆発する。「??? …アメコミのファンが騒いでるだけかな??」とも思ったけど、そうでもないらしい。ちょっと期待して映画館へ行った。

 

映画の最初のシーンで、ピエロ演じるアーサーが、キッズにちょっかいかけられてアベニューを走り回る場面の撮影は、「上手いな」と思った。これ、どうやって撮ったんだろう? 1980年頃のニューヨーク映画の雰囲気そのまんま。どこで撮ったの?歩いてる人たちは当時のファッションだし、通りで売られている商品もその時代っぽい。かなり長い距離を走っているけど、背後の光景は1980年の時代のまま。嘘っぽくない。プロダクションがしっかりしているな、と思った。

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ゴッサム•シティって、グラフィック•ノベルの世界の近未来的な都市のイメージがあったけど、この映画の中のゴッサム•シティは、昔のニューヨークそのまま。というか、実際のニューヨーク。ニューヨークの通りは 犬のおしっこの匂いするし、夏になったら通りの生ゴミが発酵して、かなり臭うよ。人々の性格は、大雑把で気性が荒くて、キツい。ええ、まさにニューヨークですよ。全然「架空の都市」の感じがしない。

ただ、見知らぬ子供に追いかけられてリンチされたり、 職場で不当に扱われていきなり仕事をクビになる、というのは実際にはあまり起きない。バスの中でも黒人女性は明るくて陽気だよ。あそこまで酷くはない。かなり脚色してデフォルメされて大袈裟に描かれているけど、感覚的にはやはりニョーヨーク 。

 

主人公のアーサー (ホアキン•フェニックス) は、ピエロ業を生業とし、家では、夜のTVトークショーを 楽しみにしている。職場とアパートと、市のカウンセリング室を往復する日々。 カウンセリング担当の黒人女性も現実味があった。「確かにこういう黒人女性は、こういった市のプロジェクトで働いているぞ!」という印象で、信憑性あった 。

アーサーは薬を7種類も摂取していて、薬漬けの生活らしい。これもアメリカの問題を提示している。アメリカではドラッグのオーバードーズで死亡する若者が多く、普通の少年でも薬に過剰に依存してたりする。実際に、若くして亡くなった息子の両親が、薬品会社を訴える訴訟はよく起こる。

 

アーサーが住むアパートのビルも、郊外によくあるタイプの、 歴史ありそうな大きなビルディング。同じ階に住むソフィーも「いるいる!こういう人こういうアパートに住んでるぞ」という感じの女性。彼女もシングルマザーだし、このビルは、市から何かの社会保障を受給してる人たちが住んでるのかな?

配役と設定がよく練られているな、と思う。そのおかげで映画のストーリーに現実味が出ている。アーサーが訪ねる州立病院 で働く人の良さそうな黒人男性も、「あー、こういう場所にこういう人いるいる!」という感じで、脇役の設定がリアルだった。

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ほとんど2時間の間、アーサーの顔のドアップ か、アーサーがトボトボと階段上がったりエレベーター乗ったりするシーンしか出てこないのに、話に引き込まれる。冴えない人生の男アーサーが今後どうなるのか、見入ってしまう。

すごいぞ、ホアキンの一人勝ちだ!と思った。

2時間ホアキン•フェニックスが泣いたり怒ったり怒鳴ったりするのを、ひたすら見続ける映画。観衆の注目を2時間引っ張り続けるホアキン

アーサーがアパートの一室で悶々と悩んで、ソファーでタバコふかしてグダグダやっているシーンを見ている時、ホアキン、やったな!と思った。

これは君の映画だ!とジョーカーに化ける前から喜んで観ていた。

ホアキンの演技力が結集されていて、これまでの集大成という感じ。ミュージシャンでいったらベスト•アルバム出した、みたいな感じ。

 

最後は周知の通り、アーサーは「ジョーカー」に華麗に変身する。

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ジョーカーが警察に逮捕されて、パトカーで連行されて街の中を走る場面では、

香港じゃないか?と思った。その頃ちょうど、毎週、香港のデモのニュース映像が日本のTVで流れていて、 車に火が放たれて香港の通りが燃えている映像を、いつも見ていたのだ。まるで、映画の中が現実みたいだった。

この映画は、現実に起こっている問題とオーバーラップしたエレメントが散らばっていて、リアルだった。劇中のトーマス•ウェインが市長に立候補するとテレビに出てる映像も、現実世界で前のNY市長だったマイケル•ブルームバーグのインタビュー見てるみたいで、既視感あった。映画の元のテーマはファンタジーなフィクションなのに、物語に嘘くささがない。実物っぽい。だから、病気を抱えながら社会の底辺でグダグダするアーサーの悩みが本物に感じる。

これは、ホアキン、オスカー取るでしょう!?

ホアキン•フェニックスは、今まで3回アカデミー賞にノミネートされてるけど、どれも逃している。最後に候補になった2012年は、『リンカーン』のダニエル•デイ=ルイスが3個目のオスカーを取ったけど、彼は映画『ファントム•スレッド』後に引退してしまった。つまり、今は主要なオスカー候補がいなくなった状態 。

ホアキンがノミネートされたアカデミー賞は全部見てきたけど、いよいよ今年、彼がオスカーを手にする姿が見られそう。楽しみにしています。

 

全然信用していなかった監督トッド•フィリップスだけど、ホアキンとは相性が良かったみたい 。 大まかなコンセプトや大枠だけ設定して、後はホアキンに、池の中の鯉のように自由に泳がせたんじゃないのかな。その方がうまくいったみたい。逆にいうと、トッド•フィリップスのユルさが良かったんじゃないのかな。

というのも、私は2012年の映画『The Master ザ•マスター』が好きではなく、ホアキンは演技を頑張ってたけど、空回りしてる感じで、私にとって息苦しい映画だった。ポール•トーマス•アンダーソンみたいな、細部までキッチリとコンセプトありそうな監督の作品は、ホアキンの魅力が出しきれないのではないかな、と思った。私の勝手な発想だけど。例えば、細かい指示をするので有名なウェス•アンダーソン監督だと、ホアキンの実力が出ないんじゃない?

 

話は全く変わるけど、私がホアキン•フェニックスの長年のファンだったのは理由があります。

私は17歳の時、ロシアの文豪ドストエフスキーの『罪と罰』を読んで衝撃を受け、「これが文学というものか!」とドストエフスキーの描写の深さに驚愕し、他の小説はもう小説とは呼ばないぞ!というぐらいハマってしまった。勢いで『白痴』と『カラマーゾフの兄弟』も 読んでみたが、やはり『罪と罰』が一番好きだった。

「この小説は映画化されていないのかな?」と調べて見た1970年のソ連制作の映画が、一番、原作の雰囲気にぴったりくる感じだった。『罪と罰』はたびたび映像化されてるけど、そこらへんの俳優を適当に使っても、ドストエフスキーの深みは表現できず、ただの安いサスペンス•スリラーになってしまうのだ。

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1970年ソ連制作の『罪と罰

私は『罪と罰』の主人公のラスコーリニコフという悩める青年が好きで、「誰が演じることができるか?」と、そういう雰囲気を持った俳優を探してたんだけど、長年、ホアキン•フェニックスが一番ピッタリな存在だった。ホアキンラスコーリニコフを演じる姿が見たかったんですね。

でもラスコーリニコフは23歳ぐらいなので、ホアキンはもう歳をとってしまったなー、と思ってたけど、この『JOKER』が「アパートの一室で悶々と悩む"妄想狂"の青年」の設定で、話の流れは全く違うけど、『罪と罰』と一部の要素が似ていて、まさしく「ホアキンはこういう演技がうまい」と思っていた「悩み悶える青年」のツボが表現できてて、 素晴らしいプレゼンテーションでした。

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↑この感じはまさに『罪と罰

印象に残っているホアキン映画というと、初期の『誘う女』と『クイルズ』です。

『誘う女』は一番最初に見たホアキン映画で、その時は「おお!これがリバー•フェニックスの弟か。似てないな...」という印象。ニコール•キッドマン演じる美女に利用されて、その後、雑巾のように捨てられる高校生役なんだけど、この「まんまと利用されて捨てられる」役がうまい。作品としてはパッとしない映画で「なんでガス•ヴァン•サントはこの映画作ったの?」と疑問に思う出来だけど、ホアキンの一途さが印象に残った。悶え苦しむ青年ホアキンです。

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『誘う女』

クイルズ』は『存在の耐えられない軽さ』のフィリップ•カウフマン監督の作品で、フランスの小説家マルキ•ド•サドの晩年を描いた映画。私はマルキ•ド•サドの小説を持っていて、本物のサドは嫌いだけど、好きな俳優ジェフリー•ラッシュがサドを演じている上、ピチピチで超可愛いいケイト•ウィンスレットが出ていて、お気に入りの映画。

私の記憶では、ケイトから「共演するならホアキン•フェニックスがいい!」とラブコールを送って、相手役がホアキンに決まったとか聞いた。映画の最後で、やはりホアキンの役は、紆余曲折あって精神に異常をきたしてしまう。キチガイ役が似合う。この映画を見て「この人は『罪と罰』いけるぞ!」と確信した。

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『クィルズ』

今回驚いたのは、この『JOKER』がきっかけで、ホアキン•フェニックスの人気が急上昇し、18歳ぐらいの女子たちが「キャー、ホアキーン!!」と45歳のホアキンに騒ぎ出し、彼が急にアイドルのような扱いを受け始めたことですね。ホアキン旋風が来てるらしい。

マジか!? ...人生何が起こるか分からん。

とりあえず、長年見守ってきたホアキン•フェニックスが、いよいよオスカー受賞か?というレベルまで達したので、嬉しいです。

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