パリとニューヨークで思考する

長年NYに暮らし、パリに住み、日本に戻ったアーティストの忘備録。

映画『天才作家の妻』の感想レビュー

NYで、ついに映画『The Wife  天才作家の妻』を見てきました。素晴らしい作品でした!個人的に好みで、2018年度で一番心に刺さった映画でした。

先日の『ゴールデングローブ賞』での主演女優賞グレン•クローズのスピーチに、人々が感動し、上映映画館が2ヶ月ぶりに戻ってきたのだ。

 

驚いたよ。こんな良い映画が見過ごされてはいかんよ。

泥の中に落っこちて忘れられていた、一粒のダイヤモンドのような映画。

まあ、70代の老夫婦の話なので、地味な作品といえばそうである。しかし派手さはないが、珠玉の一品である。なぜ『ゴールデングローブ』では、この映画が作品賞にノミネートされていなかったのか?男性選考員が、このテーマを嫌がったのか?

 

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映画は1990年代の話。アメリカのコネチカット州の作家夫婦の元へ、スウェーデンから、ノーベル文学賞受賞の知らせがやって来る。その後、夫ジョー(ジョナサン•プライス) と妻ジョーン(グレン•クローズ) は、ノーベル賞授賞式のために共にストックホルムへ向かう。

パートナーシップとは何か?を問いかける映画。夫の才能を開花させるために、自分の能力を使い果たした、妻の究極の自己犠牲が描かれている。日本では「サスペンス」扱いされて変なタイトルがついたが、そんな安っぽいものではなく、女性の生き方を描いた、赦しと希望のドラマだと思った。文学的な香りがします。

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妻ジョーンの若い頃を演じる女優さんは、グレン•クローズの実の娘さんの女優、アニー•スターク。

1950年代の夫ジョー役の俳優が、すご〜く憎ったらしい嫌な男を演じていて、アメリカ人っぽくなくてどこかで見たことあると思ったら、『ゲーム•オブ•スローンズ』のターガリエン家の嫌な兄役の、ハリー•ロイドというイギリス人俳優だった。この人、このまま「憎たらしい男を演じたら天下一品」道を極めて欲しい!頑張れ!

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それに対して、現在の夫役のジョナサン•プライスは、あまり嫌な感じがしなかった。もっと嫌な奴いるよ。素でいい人なんじゃないだろうか?むしろ可愛いおじいちゃんだったし、夫婦としてお似合いだった。

作家夫婦を追いかけるジャーナリスト役に、クリスチャン•スレーターが出ていたが、これが良かった!映画の出だしでは、老夫婦の夢物語のようなメルヘン世界だったのが、クリスチャン•スレーターが出てくることで、一気に現実味を帯びた。偽りの氷の表面をバシッと割るような役。

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後半では、映画のリアル感にハッとなって、心臓を鷲掴みにされるような感覚があった。この「心臓をつかまれる感覚」は、2016年のアカデミー作品賞を取った映画『ムーンライト』以来。凄まじい臨場感。

グレン•クローズは、今までも実力ある女優だったが、今後は「女王」と呼ばさせていただく。彼女の何気ない眼差し、動きの一挙手一投足が、絵になる。

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しかし、最後の結末のシーンまで全て見てしまうと、ただの問題提議をする映画ではなく、女性を優しく包み、妻という役割を礼讃した物語であると思った。監督、脚本家、スタッフが、このような過酷な人生を送ってきた全ての女性に対し、尊敬の念を送って、女性を讃えているように感じた。

最後、アメリカへ戻るために飛行機に乗ったジョーンが、言葉がたくさん書き込まれたノートを開き、白紙のページを撫でるように手を置くことで、今後ジョーン自身が作家活動をするかもしれない可能性を暗示して、映画は終わる。後味の良い、癒しと救済を感じる余韻が残る。

ジョーンは、エゴ肥大した夫の世話をし、夫を立て、そんな夫を許し、すべてをまとめ上げ、さらに自分自身の夢を追っていくという、万事を受け持つ菩薩のように生きていく。女性の役割は大きいわぁー、としみじみ感じた。

映画が終わっても、観客は去ろうとせず、自分の席で、互いに感想を述べ合っていた。

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男性にとっては、「痛いところを突かれた」映画である。痛いところを、傘の先でズブズブ突いてくるようである。まだ男性優位社会が残るマッチョな国アメリカでは、制作されなかったかもしれない。この映画の監督はスウェーデン人、脚本はアメリカ人女性。スウェーデン、英国、アメリカの合作の、インターナショナルな視点で描かれた映画である。エンドロールを見たら、スタッフの多くは北欧系の名前だった。

音楽も素晴らしかった!主人公の微妙な心情を、音楽が言葉の代わりとなって美しく物語っていた。ジョスリン•プークというイギリスの女性作曲家の音楽。アカデミー作曲賞を取らないかなー。

 

 

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